高額品の金字塔を打ち立てた商品だが、ターゲットを聞けば納得の価格設定だ。
関係者によれば、このブランドはSが運営する高級セレクトショップ、ザーギンザで年間1200万円以上も洋服を購入する女性がそもそものターゲット。
クレンジングからクリームまで10点ほどのアイテムをすべて揃えると20万円は下らないが、そんな金額など痛くもかゆくもない懐の持ち主向けに開発されている。
実際にフインで購入する女性は存在し、極めて少数というわけではないという。
だが、現実には購入客の多くが一般的な金銭事情の消費者だ。
ボーナス時に、複数回払いで、清水の舞台から飛び降りるつもりでなどなど、高機能に夢を託して思い切った消費を図る。
「メーカーとしては、1個高いクリームを使うよりもフインで手入れをすることをお勧めしていますが、いまやラインで揃える人は少数派。
女性たちの編集能力は高くなりました」(S関係者)Aやコスメデコルテといったプレステージクラスのブランドを売る超繁盛店として、メーカーからも一目置かれている化粧品専門店・はっぴーとく樹音(川崎市)ではライン使いできる人にだけ高額化粧品を勧めているという。
店主が「これ1個にだけお金をかけるという考え方はいかがなものか。
週に一度ステーキを食べて、あとは粗食で済ませるようなもの。
アンバランスな使い方では出る効果も出なくなる」というポリシーを貫いているからだ。
もっとも、こうした売り方は少数派だ。
高い商品が売れることに異議を唱える店は少ない。
メーカーも店も、高級感のあるブランドだからこそ無理をしてでも手に入れたがる客が多いということを知っているし、メリハリ消費や一点豪華主義など織り込み済みで、高機能化粧品を開発し販売している。
女性誌では、「人生を変えるコスメ」「一品で劇的に変わるコスメ」という特集を組み、女性もそれを楽しんでいる。
若いうちから、自分で肌のお手入れに使うアイテムをあれこれ選ぶプロセスを満喫しているのだ。
意識しているかどうかは別として、女性はマッチポンプゲームの自発的な参加者である。
年齢を重ねたらいつかは使ってみたいブランド、と言われてきたMのSKUシリーズも、最近では20代や30代のファンが目立つ。
80年に発売されたSK-Nの正式名称はシークレットキーH。
価格は高く、約1ヵ月でなくなってしまう化粧水でも6000〜1万5000円。
ラインナップをすべて揃えると10万円はかかるがゆえに、本当にこの化粧品の機能が必要になる40〜50代以上になってから揃えたいブランドとされてきた。
しかし96年に広告にMかおりを起用し、これを契機にファンの年齢層が大きく変わる。
1点買いでユーザーの仲間入りを果たす若い女性が増えたのだ。
当時44歳のMは、cMを通じて自分の肌の美しさに貢献したSK−Hの効果をあの独特の口調で語りかけ、これを見た若い女性たちがSKinに群がった。
年を取ってから後悔したくない、早め早めにケアをすれば40代に入ってもMかおりのような肌になれるかもしれないという心理がファンの若返りをもたらしたのだ。
実は99年にMはなぜかMかおりに替えて、20代の若手女優、緒川たまきを起用し若い世代の開拓を図った。
業界では、これは失策と見られている。
SKで伸びがいきなりストップした」と言う。
これに懲りたのか、Mは再びMを起用。
復活した彼女は、空白の期間がなかったかのようにSK1の顔として人気復活に貢献した。
アンチエイジング志向が高まった機会に若い世代を一気に取り込みだいからといって、単純に若い女優を起用しても共感は得られない。
「数十年後の理想の肌」を具体例で見せ、「いま現在のお手入れが肌の命運を握る」と訴えて共感を呼ぶ。
若い頃は決して美人女優として売り出していたわけではなかったMかおりが、年を取った暁に美しい肌を提示するからこそ強いメッセージとなったのだ。
Mは2005年から、20代の女優・KをSK−Hのイメージキャラクターに起用したが、Mをおろしてはいない。
MとKの2本立てで現状の顧客を維持し、新たに若年層を獲得する戦略だ。
Mは、以前の失敗からMかおりを手放すリスクが身にしみているのだろう。
アンチエイジング化粧品の隆盛は、価格の上昇だけでなく新しいジャンルの確立にも寄与した。
皮膚科医が商品開発に参加するドクターズコスメがそれだ。
シミやニキビなどの診察・治療、いわゆる美容皮膚は皮膚科医の世界では主流ではなく、どちらかといえば格下に見られていた。
ところが、最近では積極的に美容皮膚に取り組み、女性誌にも頻繁に登場する皮膚科医が増え、「皮膚科医が手掛けた」という事実を最大の武器として化粧品市場に打って出るドクターズコスメが続出している。
美容皮膚が注目されるようになったのは、ひとつには皮膚細胞生物学の発展でしわやシミ、たるみなど、女性ができたら防ぎたい、なくしたいと考える症状の発生メカニズムが明らかにされたことが大きい。
美容皮膚分野の第一人者である京都大学のM教授はこう述べている。
「紫外線が関与する光老化と呼ばれる現象が、美容的な皮膚の問題の多くに介在することが判明するに及んで、皮膚科医の関心は一気に高まった」(P文化研究所「化粧文化」2002年42号)市場原理も皮膚科医の美容領域への参入を促した。
ありふれた皮膚疾患は将来的には、日本でも米国や韓国でのように健康保険の対象からはずされる可能性が高い。
皮膚疾患だけを対象にしていた皮膚科医にとってこれは死活問題だ。
そこでこれまであまり重視されなかった美容皮膚の領域に乗り出す皮膚科医が増え、結果としてドクターズコスメの数も多くなっているのである。
メーカー側の事情も見逃せない。
もともとドクターを研究所に多数抱えている大手メーカーと違って、新興メーカーや中小メーカーにとって皮膚科医と手を組むことのメリットは大きい。
サイエンスをベースにした化粧品という特徴を、色濃く持たせることができるからだ。
女性の多くは、化粧品の機能への関心は高いが科学には疎く、「科学的」「医者」「理論」といった言葉にめっぽう弱い。
「サイエンス」「皮膚理論」「皮膚細胞生物学」といったキーワードをふんだんにちりばめた化粧品が登場すれば、信頼性が高く、信憑性があるように見なしてしまう。
メーカーにとってドクターズコスメとは、他社製品と差別化を図れる商品なのだ。
こうしたさまざまな事情から、一気にドクターズコスメは花開いた。
だが中には、ドクター○○と銘打っていても実際には名前を借りている程度で、皮膚科医がいっさい関与していない化粧品もある。
またある美容皮膚の専門医は、「皮膚科医が個々の患者に処方する化粧品にはそれなりの効果はあるが、市販された化粧品は効果が低い。
市販品はどんな症状の人間が使うかわからないですから」と話していた。
不特定多数の人間が利用する店頭に置かれた時点で、ドクターズコスメは消費者が期待するほどの「ドクターズ」ではなくなっている。
ただし、装いは科学風。
白衣を着たコスメだ。
装いを軽視しては、化粧品業界では勝ち残れない。
マッチポンプ効果で機能性化粧品の市場が広がり、それにつれて何万円もの高い価格設定が許されるようになった。
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